この記事を読んでいるあなたがもし、ボーカリストだったとしてドラマーには何を求めるでしょうか。
ドラムセットが回転するようなドラムソロ。
聴く人を圧倒する音量、複雑な変拍子でも難なく叩き出すテクニック。
残念ながらボーカリストから見た良いドラマーの条件には、ドラムソロも大きな音量も必要ありません。
では、歌のバックを務めるドラマーに求められる条件には、何があるのでしょうか。
目次
◆ドラムの役割
まず、ドラムという楽器の役割について考えてみましょう。
ポップス(歌モノ)の分野では、ドラムに求められるのはリズムをコントロールする事です。
もうひとつ、曲の構成をリードする全体の把握力。そして最後は、多彩なリズム感、ビートでしょう。
◆一定ではないテンポ
ドラムの役割として最初に挙げたリズムコントロールですが、実は、テンポは一定である必要はありません。
厳密な意味でテンポを一定にすると歌モノの場合、曲が味気ないものになってしまいます。
イントロ、歌メロディー、サビ、間奏、エンディングまでテンポは一定である必要はなく、むしろ曲中で微妙に変化させた方が歌が上手く聞こえます。
もし、あなたがボーカリストで「曲の最初から最後まで一定のテンポでドラムを演奏して欲しい」と望むなら、そのバック演奏は人間ではなく打ち込みやリズムボックスで充分です。
あなたは、ボーカリストであってボーカロイドではないのですから。
良いドラマーは、歌の抑揚に合わせてリズムや音量を適正にコントロール出来る技術を持っています。
ドラマーに必要なのは、一定の速さでのリズムキープではなく、歌を上手く聴かせる自在なリズムコントロールなのです。
◆ドラマーこそ指揮者(コンダクター)
ライブハウスやコンサートで、曲は始まる前にドラマーがスティックを鳴らして曲のテンポ出しをします。
曲が始まる前からドラマーはその曲のテンポを把握していなければ出来ない事です。
優れたドラマーは歌の構成が変わるタイミングで、演奏中のメンバーにしか分からない合図を出します。
フィルインであったり強めのシンバルヒットであったりと、ドラマーによって様々ですが、ドラマーの合図によりメンバーは曲の構成、進行が変わる事を察知し、次の動作に移ります。
その様子は、まるでドラマーが指揮者となってメンバーに指示を出しているように見えます。
一見、力業に見えるドラマーというポジションですが曲の進行を理解&把握し、構成を指揮するクレーバーなコンダクターなのです。
◆ドラムソロは必要か
ここまで、ドラマーに求められる二つの条件、リズムコントロールと把握力についてご説明しました。
ここで、ドラマーにとって見せ場のひとつである、ソロパフォーマンスについて考えてみましょう
もし、あなたがボーカリストで自分の歌声をより多くの人に聴いて欲しいと思うなら、ドラムソロ含めたバックメンバーのソロを延々と演奏されたらどう思うでしょう。
ソロパートが全く不要であるとは極論が過ぎます。
しかし、歌モノのバックバンドを務めるなら自分のソロは必要最小限(またはカット)にして歌を聴衆に届ける事に力を注ぐべきではないでしょうか。
◆多彩なリズム感と引き出し
良いドラマーの条件、最後は多彩な引き出しです。
ボーカルのバックを務めるために、様々な曲に対応する必要があります。
会場に合わせた器材選びに始まり曲に合わせた叩き方、フレーズも豊富に必要です。
「このジャンルなら叩ける」というドラマーより「どのジャンルもこなせるドラマー」の方が歌のバックバンドの依頼も増えるでしょう。
同じテンポの曲でもビート(グルーブ感)を変えて叩けるドラマーもいます。
多彩な表現、引き出しを持ったドラマーは曲の表現を広げ、ボーカリストにまでフィードバックする演奏をします。
スティックや手足をフルに使って楽器を演奏するドラマーは、その演奏形態とは異なり原始的であるが故に繊細で多彩な表現が求められるのです。
◆まとめ
良いドラマーに求められる条件として、リズムコントロール、指揮者としての要素、多彩な表現の三つをご紹介しました。
ドラマーがリズムボックスや打ち込み系の音楽が隆盛しても、なおドラマーとして需要があるのは、この三つが機械やコンピュータには不可能な領域だからなのです。